砂漠


 砂漠は、どんなものにも耐えがたき飢えと渇きを与える。


 ある日のこと。
 とある旅人が、砂漠を越えようとしていた。
 砂漠の向こうにあるという、己の故郷を目指して。
 しかし、砂漠は容赦なく旅人を襲う。
 旅人は歩き続けた。
 けれど、ついに力尽き、熱い砂の上に倒れこんでしまった。
 彼は死を覚悟し、瞳を閉じた。


 何かが頬にあたる感覚で、旅人は目を覚ました。


 恐る恐る目を開ける。
 旅人は驚いた。

 一輪の美しい花が、旅人のすぐそばで咲き誇り、泣いているかのように雫をこぼしていた。

 旅人は無意識のうちにその雫を口に運んだ。
 すると、どういうことだろうか。
 急速に渇きが癒えていく。
 まるで大量の水を飲みほしたかのように。
 私は必死に船首にしがみついている。
 旅人は立ち上がった。
 普段と同じ、いや、それ以上の活力が体を満たしていた。

 ふと見ると、花は跡形もなく消え失せていた。
 まるで夢であったかのように。

 旅人は歩き出した。
 砂漠から貰ったこの命を、無駄にさせないために。
 ……地平線の向こうに、町が見えてきた。




 またある日のこと。
 一人の少女が、砂漠を彷徨っていた。
 彼女は、顔に恐ろしい火傷の跡があった。
 赤くただれたその皮膚をなぞりながら、少女はフラフラと歩く。
 少女は捨てられたのだ。
 その風貌のせいで、実の親に。
 泣くまい、と口を噛み締めながら、行くあてもなく彷徨った。
 そんな彼女にも、砂漠は容赦なく襲いかかった。
 
 少女は倒れこむ。
 そして――泣いた。
 惜しむことなく泣いた。
 砂漠に、無力な少女の叫びが響き渡った。


 涙ではない、別の液体が、頬を伝った。


 少女は顔を上げる。
 そこには、一輪の綺麗な花が咲いていた。
 
 花は、見た目と同じく、綺麗な雫を零していた。
 少女は癖で、火傷の跡をなぞる。
 すると、驚いたことに跡が消えていた。
 鏡がないためよくわからないが、完全に消えているようだった。
 
 気が付くと、花はとけるように消えていた。
 少女は花があった場所を、じっと見つめた。
 ……遠くから、少女の名を呼ぶ声が聞こえてきた。




 そしてまたある日のこと。
 人相の悪そうな男が、砂漠を歩いていた。
 彼は、表沙汰にはできない商品を扱う商人だった。
 ここに来たのは、砂漠にあるという花を探していた。
 たった一滴で飢えと渇きを癒せる、奇跡の花を。
 ある程度歩いたところで、彼は砂漠に倒れこんだ。
 気絶したふりをし、目と閉じた。
 
 
 ふと目を開けると、彼の近くに一輪の花が咲いていた。
 花弁が若干くすんでいたが、彼は気にせず、駆け寄った。
 そして、花に手を――
 
 大きな地響きがした。
 
 彼が気が付いた時、まるで砂に大きな口が――




 その砂漠は、求めぬものには癒しを。
 求める者には――を与え続ける……。



みんなで100題チャレンジ!企画 使用お題 「043:砂漠」



 
 
inserted by FC2 system